「福祉元年」の画期的拡充策

福祉元年といわれた一九七三年には、健康保険上でも大きな改正が行われました。高額療養費制度の創設(完全実施は一九七五年から)と家族給付割合の引き上げ(給付率五割・七割)です。老人医療制度でも大きな改革が行われました。老人医療費無料化制度の創設です。

高額療養費制度は医療費負担の軽減を行う大きな改革です。それまでは、いくら高額な費用がかかっても、患者は一定割合の自己負担が必要でした。治療にかかった医療費がとてつもなく大きくなると、その一定割合とはいえ、自己負担も相当な額になってしまいます。そこで、上限打ち切り制度をつくったのです。医療費がいくらかかろうと、患者の自己負担には上限が設定されました。これが高額療養費制度です。自己負担の増大を防止し、安心して医療を受けるため、たいへん重要な制度といえましょう。

もう一つ大きな改革だったのが、老人医療費無料化政策です。高額療養費制度とは異なり、今日ではこの政策の導入は反省の念を持って、振り返られることが多いようです。老人医療費の高騰を招いたからです。俗に「タダより高いものはない」といいますが、老人の医療費を無料にしたことで、医療費全体が膨らみました。

そして、それを支える健康保険の負担の増大や税負担の増大を招くことにつながったのです。その後、老人保健法が制定され、老人医療費の無料化は廃止されました。高齢者(七十歳以上)の自己負担は、定額負担に改められました。そして、老人保健拠出金として、各保険者が老人医療にかかる費用を分担して支払う仕組みが導入されました。

健康保険制度は大きく二つに分かれています。一つはサラリーマンなどを対象とした健康保険、もう一つは白営業者などを対象とした国民健康保険です。二つまたは二つ以上の会社や工場で。常時七百人以上の従業員が働いているところでは、厚生大臣の許可を得て、独自の健康保険組合を設立することができます。これを組合管掌健康保険といい、略して「組合健保」といいます。それに対して、国(政府)が直接運営する健康保険を政府管掌健康保険といい、これを略して「政管健保」といいます。