人気エアラインは「安く、楽しい」

一九六〇年代までの世界のエアラインの本流は、国の威信をかけたフラッグキャリアの時代だった。米国のパンナム、TWA、英国の英国海外航空(BOAC)、フランスのエールフランス、ドイツのルフトハンザ、日本の日本航空などが「安全、正確、信頼、快適」をスローガンにして世界を制覇していた。

しかし、七〇年代以降、新規に参入し世界的成功を収めたエアラインのキーワードは
「運賃が安く、楽しい」ことだ。七〇年代に世界で人気を集めた新興エアラインはシンガポール航空だった。

スチュワ上アスが清潔でさわやかなお色気をかもし出しながら、IATAの準会員という立場を利用してサービスで攻勢をかけた。各国のフラッグキャリアはIATAの取り決めでエコノミークラスのアルコールや映画のイヤホンが有料になっていたのに対して、シンガポール航空は無料で飲み放題にしたのである。

IATAの規定以上の豪華なサービスが受けられ、しかも運賃は割安チケットが入手できるのだから、情報通の乗客はシンガポール航空になびいた。

自由化後の八〇年代に米国で話題を呼んでいるのはサウスウェスト航空だ。大手の間隙をぬって低運賃攻勢を仕掛け、またたく間に米国市場で寵児に祭り上げられた。飛行機が空港に着陸すると、カーレースのピットインのように社員がよってたかってまたたく間に清掃や出発準備を終え、機材は短時間で折り返す。

セクト主義に陥っていた他社の半分の折り返し時間で多くのフライトを運航することが、コスト低減に効果を発揮したのだ。大手の寡占路線に半額や四〇%引き運賃で切り込むと、多くの便数を頻発して一気に市場をさらっていく。

しかも、ユーモア精神にあふれているので乗客も楽しい。軽いおふざけやジョークが飛び交いながら、機体は清潔、ダイヤは正確、安全性は抜群、荷物の紛失も少ないのだから、言うことはない。

一五〇席級のボーインク737だけを使用し、全米にネットワークを張りめぐらすまでになったが、ビジネスとしても成功したエアラインとして、世界でも高い評価を受けている。

そして九〇年代の成功は、なんといってもヴァージン・アトランティック航空だろう。英国の格安航空会社スカイトレインの倒産のあとを受けて、音楽業界から初めて航空業界に参入した。

ヴァージンも格安運賃で参入したが、スカイトレインと決定的に違っていたのはユーモアのセンスと楽しさだ。リチャード・ブランソン会長の「安くて価値のある空間の提供」とのコンセプトが、現代の乗客の心をとらえたのだ。

一般的には「安かろう、悪かろう」となるのだが、航空業界では「安かろう」、「楽しかろう」をつくりあげたエアラインが成功している。それは、とりも直さず、経営者が乗客の欲求をキチンと受け止めているからだ。