共生によって生まれた新しい細胞

原核細胞と真核細胞のちがいをもう少し厳密にいえば、細胞核が膜で仕切られるような、明確なかたちで存在するかどうかがポイントということになる。ところで、現生の真核生物は、すべて酸素にたよって生きているが、真核細胞が酸素を利用しようとするとき几不可欠なのが、ミトコンドリアと呼ばれる微小な細胞器官である。また、緑色植物では、前項でふれたように、細胞のなかに葉緑体がある。

ミトコンドリアにも葉緑体にも、それぞれ独白のDNA(デオキシリボ核酸)があり、また両者共それ白身リボソームやRNA(リボ核酸)をもつ。このことから、ミトコンドリア葉緑体も、かつては独立した微生物だったのではないかと考えられてはいたが、それがどういう起源によるものなのか、はっきりしなかったようだ。

ところが、近年、どうやらミトコンドリアは共生原核生物に由来しており、葉緑体のほうも藍藻に近い原始光合成細菌のなごりであろうとする説が有力になったという。それにしても不思議なのは、もともと性質が異なっていた原核細胞に類縁のあるミトコンドリア葉緑体が、なぜ真核細胞に入り込んだのかということだ。

ここで登場するのが「共生説」である。この共生説について説明するためには、まず、微小生命である細菌が酸素の大公害で劇的な変化を被っていた真っ只中に、なぜ新種の真核細胞が出現したかを理解する必要があろう。

L・マルグリスによれば、真核細胞は、空気中の酸素濃度がまだほんの数パーセントしかなかった二十二億年前ごろ、とつぜん出現したらしい。さまざまな条件からみて、時間をかけてゆっくりと移行したものであったとは考えられないというのである。