人材能力の向上とミス・マッチの解消

日本の労働政策はこれまで長い間、第二次大戦後の高度成長期を経て日本経済に普及し定着してきた日本企業の長期安定的雇用慣行のメリットを強調し、とりわけ一九七〇年代中盤以降は「雇用調整給付金」などの支援措置によりそのメリットを維持することに力点を置いてきた。それはそれで重要なことであり、また、日本の雇用慣行や労働市場の長所として大いに国際的にも理解を求め、かっ参考にしてもらう価値のあることである。

しかし、それと同時に、これまで述べてきたように、日本経済をめぐる内外の環境条件が大きく変化しており、そうした変化に対応して、いまいちど日本経済の人材の適材適所を充分に実現しなおすことが必要であるように思われる。それというのも、日本経済をめぐる環境条件の大きな変化に対して、雇用の適応は必ずしも充分ではなく量的にも質的にもさまざまなミスーマッチが拡大しているように思われるからである。

世界経済や日本経済のコスト構造や技術構造の変化をつうじて労働需要の構造は大きく変わっているのに雇用の構造は必ずしも適切に対応していない。あるいは高齢化や少子化にともなって労働力の供給構造は大きく変わっているのに雇用のあり方は充分に対応していない。都市化や情報化にともなって、産業の分布や職業の中身は大きく変わっているのに雇用の構造や人材養成のあり方は的確に対応していない。これらのミス・マッチは枚挙にいとまがない。

重要なことは、内外の環境条件の変化に対応してこれらのミス・マッチを最小限にし、また同時に人材の質の向上ないし人的資本の蓄積を大いに進めることである。このような人材の活用と能力の向上に失敗すれば日本のように高コスト経済となった国では、経済資源は日本の外に流出してしまい、国内は空洞化、賃金破壊、雇用破壊の悲惨にさらされることになる。