ジャワ島中心に居住するこの三大集団

それまで20年あまりの間に私は、もう数え切れないほどの回数、この国を訪問していた。だが継続して3ヵ月以上滞在したのは、1970年代の後半の2年間と80年代後半の1年間だけであった。しかも、従来の私の主な研究対象は、同じジャワでも中・東部ジャワの農村経済の変化の様子であり、調査のベースとしていたのはジャカルタから東へ500キロ以上も離れた王宮・学園都ジョクジャカルタであった。もちろん、目的地に向かう前にはほとんど必ず首都のジャカルタを通るのであるが、それはいわば奥の間に行き来するための玄関口の通過のようなもので、大概はホテルや知人宅に数日間寝泊まりするだけであった。

そんな私にとって、東京にほとんど匹敵するほどの大人口をもつジャカルタでの長時間の滞在は、それだけでも新鮮な刺激に満ちたものであった。まず私の注意を引いたのは、ジャカルタが全国各地から多様な背景をもつ人々が群れ集まる「諸民族のるつぼ」であることだった。これについて、一般読者には少々説明が必要だろう。

単一民族国家」という錯覚を抱かせるほどに民族的多様性の乏しい日本と違い、インドネシアは数百もの種族(または民族集団)から構成される多民族国家である。各種族はそれぞれ独自の地方語と風俗習慣をもつ。各種族の地方語は、概ね同一系統の言語集団(オーストロネシア語族)に属しているとはいえ、その違いはヨーロッパのなかの各国語の違いと同じくらいに大きい。推定人口1000万人以上の大種族は、中・東部ジャワを中心に居住するジャワ族(7000万人前後)、西ジャワのスンダ族(3000万人前後)、東部ジャワのそのまた東半分に住むマドゥラ族(1000万人前後)の3つである。

いずれもジャワ島中心に居住するこの三大集団に続くのは、スマトラ島のミナンカバウ族、バタック族、アチェ族、ムラユ族、スラウェシ島のブギス族、マカッサル族、カリマンタン島のバンジャル族、バリ島のバリ族など、人口数百万人単位の諸族だ。ちなみに、国語のインドネシア語は、マラッカ海峡をはさみインドネシアスマトラカリマンタン)とマレーシアの双方にまたがって住むムラユ族の言語、すなわちマレー語を母体にして発達した全国共通語である。人口最大のジャワ族の地方語(ジャワ語)はこれとは異なっており、その差は、たとえて言えばおそらく英語とドイツ語の違いよりも大きいほどである。

さらに忘れてはならないのは、中国系(以下、華人と表現する)、アラブ系、インド系など、外来のアジア系住民が全国各地の都市部に居住し、独自のコミュニティをつくっていることだ。とくに華人人口は総人口の3〜5パーセントと言われ、合計すればおそらく人口第4位の民族集団となっている。これら外来系の人々も含めて、総人口二億を越えるインドネシア国民が形成されているのである。

H.I.S. バリ島旅行・ツアー・観光