安倍氏の継承すべき点

小泉純一郎氏やフレア氏のような成功者に続く場合、自分が、彼らとどのように違うのか、あるいはどのくらい似ているのか、また、そのどちらを強調するかは、新首相にとって難しい選択だ。政治家が成功するには、うぬぼれが強くて、自分が特別であると信じなければならず、継承ではなく、変化を選ぶのが本能だといえよう。

それが、ブラウン氏が選んだ道なのである。彼には独自色を打ち出す別の動機もあった。というのも、フレア氏が主にイラク戦争のせいで、首相としての最後の数年は、とても不人気だったからだ。しかし、ブラウン氏はもっと注意すべきだった。たしかにフレア氏は、イラク問題で不人気になったが、それでも英労働党から出た中では最も成功した指導者であった。一方、安倍氏の場合は、前任者が残した真の基盤を無視することが、どんな間違いになるかをよく示しており、ブラウン氏もまた、今、同じ道をたどっている。

独自色を出したいという本能は分かるが、就任後の安倍氏が、なぜ、あのような政治路線をとったのか、いまだに理解に苦しむ。小泉氏の人気は、経済改革への明確な姿勢と、政府の現状を変革したいという熱意に基づいていた。そのような変革は、一部しか成功しなかったものの、少なくとも彼は正しいことを実行しようとしていたと、日本国民は信じていたようだ。小泉氏のマーケティング能力は優れていて、たしかに効果を発揮した。しかし、粗悪品を売るために、たとえ華々しいキャンペーンを展開しても、長くは成功しないというのが広告業の鉄則である。小泉氏が成功したのは、自民党と政府を変革し、それに経済も変えるという彼の商品が、十分に信用に値するものだったからだ。

これが安倍氏の継承すべき点だったが、彼はそうしなかった。就任当初に成功した中国と韓国の関係改善によって、高い支持率を得たが、それはあまりにもたやすく、順調すぎた。首相交代が、新たな日中関係を確立する契機になっだのは明らかで、二〇〇八年に北京でオリンピックが開催される予定があっだので、中国政府が友好的になるのは当然だった。勝利をたやすく得たことから、違った独自路線を進むことが正しいと、安倍氏は信じ込んだのかもしれない。

ブラウン氏はこの点に留意したほうがいいと思う。独自色を打ち出そうとして、安倍氏は、一体何を強調したのだろうか。憲法改正および学校における愛国心教育が、前述の日本の外交政策の転換に加わったのである。さらに、五〇〇〇万件もの年金記録が散逸するスキャンダルや、経済が失速しているにもかかわらず、彼がその強化策を打ち出さなかった失敗で、政府の無能ぶりをさらけ出したのである。