金融情勢と国際政治情勢での大きな変化

株式市場をも含めた広い意味での金融市場を観察しているマーケットーエコノミストの目から日本の状況を眺めた場合、どういった情勢分析ができるかを試みたものである。意を注いだ点は二つである。第一は、実物経済と金融経済が密接に結び付いているとの考え方に立脚し、とくに金融経済に力点を置いて分析することである。「平成金融不況」という言葉を題名に選んだのは、この絡みからであり、金融的側面にこそ今回の不況の本質が含まれていると考えられるためである。

第二は、経済動向と内外の政治情勢が不可分であるとの認識に立つことである。九〇年代における日本の経済的窮境を理解するには、経済的な側面だげに基づいたアプローチでは十分でないように感じられる。内外の政治情勢における大きなフレームワークの変化、いわばポスト冷戦期への移行が経済面に及ぼすさまざまな影響を念頭に入れなければ、なぜわが国経済がこれほどの事態に陥ることを余儀なくされたかを理解しえないはずである。

たとえば米国が自国の経済力の失地回復と国際競争力の維持をはかるため、自国本位主義に傾斜したり、それとの関連で八七年末にBIS自己資本比率規制を主要国に合意させたことは、わが国のみならず、世界的に実に大きなインパクトを及ぼすことになった。また、八九年末のベルリンの壁崩壊とその後の東西ドイツ統一が、国際政治情勢のみならず、国際金融市場に与えた影響も相当なものがあった。さらに、九一年のソ連におけるクーデター失敗と、付随するソ連邦の消滅は、米国の国際的な政治・経済戦略に甚大な影響を及ぼさずにはおかなかった。

こうした金融情勢と国際政治情勢での大きな変化が、戦後のわが国の経済発展を支えてきた基本的枠組みを抜本的に変えることになったのは当然であった。わが国経済は戦後五〇年を経て、あまりにも巨大になり過ぎている。経済発展の外的条件が急変したからといって、内的状況を即座に変化させ得るわげではない。

日本を取り巻く、この外的条件と内的状況の間におけるミスマッチは、解消の方向に転じていると見るにはまだ無理があると思われる。このミスマッチを是正するには、各方面でさまざまな軋棟が生じることは必至である。九四年秋の時点で、経済面においても基本的問題が未解決なままだし、そのことによって発生する負の潜在的エネルギーをとり難いように見受げられる。