「通貨戦争」を勝ち抜く為には「融和」は足枷となる

FRBのさらなる金融緩和政策に金融市場の視線が集中する中、通貨高に苦しんでいるブラジルが予想外のタイミングで0.5%の利下げに踏み切った。ブラジルのマンテガ財務相が2010年9月に、「各国政府は輸出競争力強化のために自国通貨を操作しており、世界は『国際的な通貨戦争』状態にある」と発言してから約1年、ブラジルも「通貨戦争」に宣戦布告を行った格好。

BRICsの一角として世界経済の牽引車となることが期待されていた新興国の雄ブラジルも、先進国経済の失速に伴う景気減速(実質GDP成長率見通しプラス4.6%から3.5%へ下方修正)と、インフレ(7月CPI前年同月比 6.9%上昇)に苦しみ始めていた。経済構造の特殊性もあり、ブラジルは成長率見通し3.5%と、成長率に比較して政策金利12.5%に対して政策金利が高過ぎる状況となっていた。

その結果、ブラジル株式市場の8月末時点での2011年3月末比でのパフォーマンスはMSCI Emerging Markets(EM)構成21カ国の中で17位の▲16.02%(配当金を考慮しないUS$ベース)と低迷していた。

因みにEM構成21カ国の株式市場ワースト5は、トルコ▲22.97%(同)、ロシア ▲18.22%(同)、インド▲17.92%(同)、そしてブラジルである。これら株価が低迷する新興国の共通点は、インドを除いて政策金利が成長率予想(IMF World Economic Outlook April 2011ベース)を上回っている高金利国ということ。先進国の景気鈍化を受けて、高度成長が期待される新興国でも金利が成長の足枷になって来ており、トルコも今月政策金利を0.5%引き下げに動いている。

低成長からの脱出の処方箋に苦しむ先進国と、高金利が成長の足枷となっている新興国の一部は足枷となっている高金利の修正に動き出した。このことは今後の世界の金融市場に少なからず影響を与えるはずである。

ブラジルが「通貨戦争」に宣戦布告を行うなか、日本では野田新首相が各方面での融和を図った動きを見せている。先日「党内融和」のシンボルとして小沢元代表に近いとされる輿石氏を幹事長に据えたのを始め、1日には組閣前という異例のタイミングで経済3団体に就任の挨拶に訪れた上、自民党公明党両党との「1 回目のプロポーズ」となる党首会談を行い、(1) 東日本大震災の復旧・復興 (2) 積み残しになっている税制改正 (3) 円高・デフレ経済対策、を検討する3つの実務者協議機関の新設を提案。小沢元代表グループのみならず、関係が悪化していた経済界や野党に対しても「融和」を求め低姿勢を貫き通した。

「融和」を求めて低姿勢を貫き続ける新首相。その謙虚さには敬服するが、国難を乗り越えるために強いリーダーシップが求められる新首相が見せる謙虚さに危うさも感じてしまう。大連立を念頭においた「円高・デフレ経済対策」を検討する実務協議機関の新設は、日々情勢が変化する市場に対して機動的かつ大胆な対応をする足枷にもなりかねないもの。

謙虚さは人間としては美徳かもしれないが、強いリーダーシップが求められる今の日本で、新首相が見せる過剰な謙虚さは、「通貨戦争」の相手国や、政府のお得意の「投機筋」に対して弱みを見せることでもある。

決選投票で「泣き虫」を破った新代表、新首相は一日も早く「強いリーダーシップ」の片鱗を見せるべきである。「良い人に見える無能な首相」は、菅前首相だけで十分なのだから。